「ねがい」
ねりま丹後湯






1郵便屋さん 作詞;小湊比呂美 作曲:岐部友信(1975年)
vocal:飯野陽司 chorus:井澤正

■楽曲
青山学院大学の童謡研究会では、創作童謡、つまり自分たちでオリジナルの童謡を創作することを活動の柱としていました。詞だけを書くもの、その詞に曲をつけるもの、詞も曲も一緒に創って発表するものと、スタイルはそれぞれでしたが、概して創作意欲は旺盛で1年間に100曲近く発表された年もありました。
もちろん素人故に詞も曲も稚拙なものが多かったことは否めませんが、しかし、なんの制約にもとらわれず、伸び伸びと創作できる環境であったことから、音楽的な未熟ではあっても感性がきらりと光る瑞々しい作品も多くありました。
これらの作品の中から、毎年、部員の投票によってランキングが決められます。今ならばランキングなどに意味はないと笑って済ませるのですが、若い頃は誰もがランキングをつけるのが大好きなのです。
そして、私が童謡研究会に入る前年、つまりまだ田舎の高校生だったわけですが、そのときの1位がこの「郵便屋さん」という曲でした。
作曲の岐部さんは私が入学したときに既に留年の5年生。作詞の小湊さんは直接は存じ上げません。
短いけれどもたいへんに個性的なメロディーの曲です。
「赤い自転車〜」のモチーフが提示され、しかし、単純な繰り返しではなくてモチーフが形を変えて展開していき、サビを挟んでまたモチーフが出てくる。シンプルなAA'BA''の構成でありながら、微妙にニュアンスを変えていくメロディーが見事です。
詞については、かなりシンプルです。郵便配達員が郵便を届けるだけの、そう言ってしまえば身もふたもない表現ですが、要はそれだけの詞です。
けれどそこにお天気が良い日とか雨の日とかのちょっとしたギミックをつけることで、単なる情景描写ではなくて、子供目線で郵便屋さんを待っている詞だということがわかります。
「郵便です」というフレーズから、郵便はポストに投げ入れられるのではなくて、この子供に直接手渡されるのでしょう。そういうシーンが浮かぶ、ほのぼのとした詞です。

■プロダクション
原曲は2ビートのカントリー調の演奏でした。それを4ビートにし、少しジャジーな雰囲気を加えています。
こういうザクザクとリズムを刻むギターは個人的に大好きです。キーはGですが、イントロや歌の合間にはC9を弾き、しかもペース音を省いているからギターだけだとGmの響きに聞こえるようにしています。
シンプルなアレンジですが、なかなかに軽快で気持ちがいいと思います。
ボーカルは中山親分にお願いしました。デモで私が歌ったとき、ノリで「ちっちっちっちっ」というフェイクを入れたのですが、これがけっこういい感じで、子供は特に喜んでいました。そのフェイクも一緒にやってくれるようお願いしています。
こういう曲なら練習しなくても歌えるのが親分。むしろ練習しないで歌った方がいい味が出たりするのではないでしょうか。2テイクぐらいであっさりと録り終えた記憶があります。
コーラスは、即興で参加した井澤君。とりあえず自由にフェイクを入れてもらい、ハモってもらって、感じのいいところを使っています。
最後の「郵便屋さ〜ん」の絶妙なフラットは、さすがです。
短いけれどとても楽しい曲に仕上がりました。1曲目、つかみにぴったりです。




2小麦色の天使たち
作詞:泉野泰宏 作曲:村田直子(1987年)
vocal:けろけろず

■楽曲
童謡研究会の歴史の中でも、80年代は質・量ともに大きな飛躍を遂げた10年でした。桑原正光君や土橋一夫君など、重要なキーマンも登場します。この作曲者、村田直子さんもその一人です。
ご本人のことはまったく存じ上げません。しかし、80年代につくられた曲集をめくっていると、この方の作品が多く見られ、しかも名曲が多いのです。
いい曲というのは実は楽譜も美しいものです。ぱっと見てきれいだなと感じる楽譜は、まず間違いなく音もきれいです。村田さんの作品がまさにそれで、ページをめくっていて、ふと手を止めると村田さんの作品だったということが何度もあります。
この曲もそうでした。
曲集の中でも見ただけで確かな存在感がありました。
とにかく出だしのメロディーが抜群です。「アースファルトにー降ーりてきた−」というこのフレーズの実にキャッチーなこと。
21世紀に入って、いわゆるJポップはいかに早くサビを聴かせるかという競争になり、実際、1分以内にサビにたどりつかない曲はダメだとさえ言われています。その点この曲は、いきなりのサビ!
かと思ったら、実はこれはAメロで、次のBメロに続くCメロが本来のサビだったという凝ったつくりになっています。これも魅力の一つです。一緒に歌うと、とても気持ちのいい歌です。
作詞は泉野泰宏君。ギター弾きでした。
きっと真夏のきらきらした日差しの中で、夏休みの子供たちが跳ね回っているのを眺めて浮かんだ詞なのでしょう。生命感あふれる詞です。
詞が先なのか、曲が先なのか。たぶん詞が先だろうなあ。

■プロダクション
このアレンジはかなり時間がかかりました。けれどアレンジしていて楽しかったです。原曲が魅力的だと、アレンジ作業も楽しくなる。
ギターはかなりの本数を使っています。ミュートギターもディレイっぽくしました。
ディストーションギターは高中正義のイメージ。クリーンギターのもわもわした感じは、夏の午後のけだるさです。
ストリングスはシンセ。ベースはけっこうコンプレッサーをかけています。
ボーカルは当初、比美子だけを考えていましたが、このキラキラした世界は「けろけろず」がぴったりだと思い、えりずーさんと比美子のデュエットに。この二人ならば、ボーカルは任せて安心です。
サビの「小麦色した天使たち」で「てーんしいーたち」とポルタメントをきかせて歌っています。これはえりずーさんが練習で無意識にこう歌ったのがとても感じよく、そんなふうに歌って欲しいとお願いしました。
Aメロ、サビ、けっこうボーカルを重ねています。
ツイッターで小室哲哉が「ボーカルは6回重ねると新しい声が浮かび上がってくる」とつぶやいていたのを読んで、この頃はいろんなボーカルで意識的に多めに重ねるようにしていました。
伊達君は、レビューでキャンディーズを持ち出してくるかな。
「けろけろず」、歌えば歌うほどよくなってくる。もっと活躍して欲しいものです。次に出てくる文野君とともに、この世代のボーカルは宝物です。


3 流れ星みつけて
作詞・作曲:土橋一夫(1987年)
vocal:文野武

■楽曲
80年代のキーマンの一人、土橋一夫君の作品です。
現在は音楽評論、制作ディレクター、レーベル運営と、音楽業界の最前線で意欲的な活動を展開している土橋君。我々の中から出た、音楽業界人ツートップの一人です。ちなみにツートップのもう一人が、作詞家の桑原正光君。
我々の頃は音楽関係は適当にやっていたのですが、土橋君は本当に厳しく指導していたらしく、文野君が「ドバシスタンダードはきつかった」と振り返るほど。その豊富な音楽知識に裏付けられたディレクションは、学生のレベルを超えていたのではないでしょうか。 実際今もメールなどを読むと、どうしてそんなことを知っているのだろうという音楽ネタが後から後から出てくるのでした。
この曲は、土橋君自らリクエストしてくれました。思い入れが深かった曲なのでしょう。 (そのあたりのことが書かれたメールをいただいたのですが、パソコンのクラッシュで消失してしまいました。土橋君、よければまた教えてください)
メロディーラインは、いわゆるドバシ節。いかにも土橋君らしいコードとメロディーです。 ただ「誰もいない部屋の−」の平メロでところどころ飛ぶのが、土橋君にしては珍しい展開です。それだけ歌うのは難しいわけですが。
詞は「天文学者」という単語に感動しました。すてきな言葉を持ってきたなあ。
はっぴいえんどにルーツを置くナイアガラ系が好きであろう土橋君。そのロマンチックな音に通じる単語を見つけたのでしょう。
短いけれども、とてもすてきな歌です。

■プロダクション
流れ星の世界が感じられるアレンジを目指してみました。
実は土橋君から作品のアレンジのイメージは聞いていたのですが、丹後なりの解釈で自由にアレンジさせてもらいました。
イメージはバードランドというアイリッシュバンドの「The Maid Behind the Bar」という曲です。あんまりアイリッシュぽくないのは、このバンド自体がアイリッシュぽくないからですが。
少ない楽器できれいなメロディーを演奏している楽曲というのは、とても心地よいものです。
音的にはちょっと工夫していまして、ベースはアコースティックベースにユニゾンでファゴットとハーモニカを混ぜています。ちょっとユニークな音ができました。
また、ンチャカ、ンチャカとリズムを刻んでいるのは、実はガットギターです。ガットギターの音の長さ、リリースタイムを極端に短くして、打楽器のような感じで載せてみました。ポール・サイモンが時々使う工夫です。
そして最後になってストリングスが入って音が広がるという構成です。
ボーカルは最初から文野君と決めていました。
まさにドンピシャでイメージ通り。すばらしいボーカルです。ちょっと巻き舌っぽいところなども含めてさすがの表現力。なによりもこの甘い声は、最強の武器です。
セルフハーモニーもお任せでばっちりと決めてくれました。


4 ボールとらしてください!
作詞・作曲:斎藤一妻(1983年)
vocal:井澤正 おじさん:飯野陽司

■楽曲
斉藤一妻君は、私が5年生の時に入ってきた部員でした。彼が名曲を量産するのは私が卒業して以降のことで、17曲目に入っている「クロッカス咲いたら」で突然ブレークしたと思ったら、あれよあれよと怒濤の勢いで量産したそうです。
この作品も、量産期の一曲でしょう。
ただ単にボールが怖そうなおじさんの家に飛び込んじゃった、というだけの歌です。その後ボールを返してもらったのか、おじさんに怒られたのか、さっぱりわからない。それだけなのに一曲成立させてしまっているわけです。
そのあたりが、何ともユニークです。
曲については、キーがGなのにBmで始まるという意表を突いた展開。けれどそのあたりの不自然さを感じさせない、これはなかなかのテクニックの作品だと思います。

■プロダクション
イメージしたのはCCBあたりのテクノ歌謡。イモ欽トリオとか。
詞が、ほら、「したんです」とか「しちゃったんです」とか、80年代初頭の香りがいっぱいにするので。
そのあたりをわかってくれて井澤君、歌ってくれました。
この曲は音域が意外に広くて、下に合わせると上が出ないし、上に合わせると下が歌いづらい。井澤君にはご苦労かけました。こんなに広い音域の曲を、当時はどうやって歌いこなしていたんだろう。
おじさん役は、親分。適任かと思いますが、あんまり怖くない。
やっぱり何をやってもおかしみが出るのが、親分の持ち味です。


5 いってらっしゃい
作詞・作曲:北川晃(1982年)
vocal:吉江英司

■楽曲
これも4曲目と同時期につくられた作品です。
地味ですが北川君の隠れた名作です。
明日は父さんが出て行くという、前の晩のことを描いたもので、寂しいとか、そういう心情は一切書いていないのに、シーンの描写だけで気持ちが伝わってきます。これはすごい力を持った詞だと思います。
この主人公は、ご飯をよそったりしているからたぶん小学高学年くらいの女の子で、お父さんのことが大好きで、という気持ちがとてもよく伝わってきます。
メロディーは、昭和のどフォーク。吉田拓郎の名曲「都万の朝」を思わせるメロディーです。

■プロダクション
えーじ君にボーカルを依頼したのは、昭和のどフォークの味わいが欲しかったからです。そのリクエストに応え、なんとも深い味わいのボーカルを披露してくれました。
いつもはコミカル担当のえーじ君ですが、こういう歌もすばらしいのでした。
録音に立ち会った井澤君も、くわもには細かく指導したのにこの歌については「どうにも指導のしようがない」と絶賛。えーじはえーじなのです。
なお、やはりその場にいたくわもくんも加わって、この詞の世界について話し合いました。 「港を出る日」なのだから、父さんは漁師ではないか。しかし「漁師が黒い靴に白いシャツというのは変だ」とえーじくん。
結局、タンカーに乗り込むお父さん、たぶん機関士、という結論に落ち着きました。本当のところを北川君に聞いてみたいものです。
アレンジは、やはり昭和フォークの世界。くどくて、粘っこくて、湿度の高い音にしたいと思いました。エレキギターの粘りは、まさにそんな感じです。
でも、アコースティックギターの音色かどうもイメージと違う。これはこの曲に限らず、いつも思うことで、考えている音がどうしても出せないのであります。悔しいなあ。
ギター専用音源も導入しなければならないのでしょうか。そんなカネはないしなあ。


6風と雨の子もりうた
作詞・作曲;関川恵理子(1992年)
vocal:関川恵理子

■楽曲
1曲目で説明したように、創作童謡は毎年人気ランキングが発表されるのですが、この曲は1992年度の20番目ぐらい。意外と人気のなかった曲のようでした。
確かに地味だしねえ。
でも、丹後は初めて聴いたときに、メロディーがとてもきれいだと感じ、アレンジ次第で大きく生まれ変わるんじゃないかと思ったものでした。
確かにこういう曲が童謡かと問われれば判断は難しいかもしれませんが、しかし、いい歌であることは間違いありません。メロディーラインがとてもきれいで、特にサビなどは絶品だと思います。
詞について、えりずーさんに聞いたら、青森に住むおばあちゃんちに泊まったときのことを思い出して書いたそうです。
きっと夏の終わり、田舎の家の広い部屋でえりずーさんは、青森の野を渡る風の音や雨の音に耳を傾けていたのでしょう。「風の奏でるメロディー」「雨の奏でるメロディー」は、とても素敵な表現だと思います。

■プロダクション
というように、アレンジ次第ですごくいい曲になるはずだという確信がありました。さて、どうしよう、といろいろ考えてたどり着いたのが、岡村孝子の世界。「夢をあきらめないで」です。
そこでシンセを全面的に取り入れ、つぶしたシンセベースで4つ打ちさせ、シンセドラムで冷たいリズムを取らせました。単純なリズムの繰り返しなのですが、これが意外と心地よいのでした。
アレンジを聴いたえりずーさんが「涙が出てきた」と言ってくれたので、アレンジは成功だったと思います。
ボーカルは作者ご本人。何も言うことはない、素直で、それでいて気持ちのこもったボーカルです。たぶんえりずーさん本人も、この歌が大好きだと思います。そして、青森のおばあちゃんのことも大好きなのだと思います。


7黒んぼ白んぼ
作詞:鈴木英吉 作曲:島野正美(初出不明)
vocal:飯野陽司 chorus:井澤正

■楽曲
童謡研究会、初期の名作です。いつ作られたのかもはっきりしないくらい、古い作品です。 当然ですが、現在では「黒んぼ」は100%使用不可の言葉。昔はそんなことはまったくなかったんですね。
また、日焼けして真っ黒な子は優良児、日焼けしてない真っ白な子はダメな子、という現在の価値観とは全く逆であるところも面白いです。
ただ、こういう詞の事情は別として、メロディーがすばらしく、歌っていてとても気持ちがいいのです。

■プロダクション
ビッグバンドジャズふうにしました。前に別の曲で使ったアレンジが自分でも気に入っていたので、使い回し、というかリサイクル、というかセルフ流用というか。
まあ、こういうアレンジの音も、この歌の世界には合っているでしょう。
ボーカルは親分。何も注文をつけず、お任せでした。
そしてその場にいた井澤君に、急遽、最後だけハモってもらいました。


8 あじさい
作詞:鈴木洋子 作曲:伊達重明(1979年)
vocal:丹後比美子

■楽曲
本当に短い楽曲です。しかし、完成度はかなり高い。
詞は、なぜ色変えるという問いかけにあじさいが答えるという形式のもの。問いかけたのは、あじさいを前にしている小さい子でしょう。
曲もシンプルながらとても完成度の高いメロディーです。聴きやすいのに歌ってみると相当に難度の高い、つまりプロ向きの歌だと思います。
確か詞が先に発表されていて、その数年後に伊達君が発掘して曲をつけたのではなかったと記憶しています。

■プロダクション
こういう曲はオリジナルに忠実に編曲するか、大きく崩してしまうかで、悩むところ。今回は思い切って後者にして、ボサノバのアレンジとしました。
ギターを立たせたアレンジです。エンディングのバイブは、ちょっと遊んでみました。自分でも気に入っているひと味です。


9 春の国
作詞・作曲:桑原正光(1983年) Vocal桑原正光

■楽曲
作詞家・桑原君、唯一の作曲です。
現在はプロの作詞家である桑原君は、学生時代も怒濤の勢いで詩作を行っていました。質量ともに、今見返しても圧倒的です。
そんな中で本人曰く「一つくらいは作曲しておきたかった」ということで作ったのがこの曲だったそうです。
ここで描かれているのは、学生時代の光景かと思ったら、高校時代に見たふるさとの光景だったそうです。だから乱反射している川も、多摩川じゃなくて北海道の川だそうです。 例えば一番と二番で「ランドセル達」と「野球帽達」の位置がずれているなど、今の本人から見れば瑕疵があるそうですが、いやいや、なかなかの作品ではないかと思います。
「ぎすぎすしてた誰かとも自然に笑えそうだな」というフレーズは、まさにくわも節。

■プロダクション
丹後湯、今回のアルバムのサプライズゲストはこの作者です。
もともと創作童謡ならすべて任せろというぐらいに創作童謡大好き人間。丹後の依頼に喜んでボーカルを引き受けてくれました。
桑原君のボーカルのいいところは、とにかく自分が気持ちいいように歌いたいという姿勢が貫かれていることです。これは、忘れがちだけど案外大事なことなのです。
今回のレコーディングには井澤氏がたまたま立ち会ったので、桑原君は井澤君にかなり細かく歌唱指導を受けました。その成果がばっちり現れていて、これは6テイクとった中の4番目のテイク。最初のテイクとは見違えるほどよくなったボーカルです。
また、原曲はハネないメロディーでしたが、詞の世界からわくわく感を出したくて付点のハネにアレンジしました。
リコーダーは、栗コーダーのイメージ。そこにジャズっぽいアレンジを載せています。楽しくスキップする感じが出てたら、大成功。


10 雪うさぎ
作詞:田原明子、野本真紀 作曲:伊達重明
vocal:伊達重明

■楽曲
「あじさい」と同じ路線の歌です。メロディーが、聴いてるとシンプルなんだけど、実はものすごく難度が高い。
作者本人が歌って、こんなに難しい歌だったとはと驚くほどです。
これは確か田原さんが1番だけを作詞して卒業。その後に入学した、野本さんが2番を付け足したと記憶しています。
確かに1番だけでは短すぎて、歌としては成立しづらいですね。野本さんのおかげで歌として残ることができました。
こういうバトンリレーは楽しいものです。
細かなコード展開がすばらしい曲です。

■プロダクション
アレンジは、伊達君に歌ってもらうことを想定して行いました。
一番の「雪うさぎ〜」のところは、ジャジーなコード展開。ちょっと反則ギリギリのところの展開ですが、なんとか収めることができたかなと思っています。
少ない楽器で十分に世界を表現するのは、アレンジャーとしては難しいけれどやりがいのある挑戦です。
伊達君は自ら作った難しいメロディーにボーカリストとして挑戦。実はこのボーカルは、ミキシングではほとんといじっていません。それでいて、ちゃんと音が取れていますから、さすが伊達君です。


11 ふうちゃん でておいで
作詞・作曲:北川晃(1982年)
vocal:井澤正、桑原正光

■楽曲
北川君の作品です。
「ふうちゃん」とは誰か、なぜこういうシチュエーションなのか。くわも君に尋ねたら、特に意味はないそうで、突然に発表された歌とのことです。
メロディーがキャッチーで、特にサビの「ふーちゃーん」はすぐに覚えられる。そして10人いたら10人とも「ふーちゃーん」と追っかけるはずで、実際、部会ではみんなで「ふーちゃーん」の大合唱だったそうです。
ちなみに自分も歯が生え替わっている最中の娘が、この歌を聴いて不思議がっています。
「歯が生え替わるのはとても嬉しいことなのに、どうしてふうちゃんは出てこなくなっちゃんだろうねえ」って。

■プロダクション
こういう曲は特別な仕掛けは必要なくて、ただシンプルなフォークロックにするだけで成立します。なので飾り気のない8ビートの歌にしました。
ボーカルは、井澤君。ところがその場にいたくわも君がこの歌のことを「好き好き、大好き」と大騒ぎ。井澤君の録音後、歌う? と聞いたら「当然です」とマイクの前に立ってご機嫌に歌ったのでした。
それがあまりにいい出来だったので、2番を井澤氏から譲ってもらってこういう形にしました。収録する予定はなく、遊びで録音したのでマイクのセッティングはでたらめ。おかげで変な部屋鳴りが入ってしまいましたが、ま、それもまたライブ感ということで。
ちなみにサビのあたりのメロディーが、桑原君が歌うと楽譜と微妙に違っていたりして、これはみんなで歌っているうちに自然に変化したものなのでしょう。
いずれにせよ、これは歌っていてとても気持ちのいい歌なのでした。


12 コンビニでお買い物U
作詞・作曲:丹後雅彦(2010年)
Vocal:丹後比美子、丹後咲杜、丹後野之花 ママ:関根美奈子

■楽曲
学研に「ピコロ」という月刊誌があります。幼稚園や保育園先生達が読む、保育雑誌です。その雑誌には毎号付録のCDがついて、新しい歌が掲載されています。私はそのアレンジをさせてもらったり、作曲をさせてもらったりしています。
「ピコロ」は実は若尾さや子さんがずっと編集の責任者を務めており、そのご縁で私も仕事をさせてもらっています。童謡研究会時代にやっていたことが今になってこういう形で広がるというのは、なかなか感無量です。
さて、この曲は「ピコロ」の姉妹誌「あそびと環境 0・1・2歳」という雑誌の2011年春号に発表された作品です。実は新しい体操のための音楽でした。ですので、雑誌では体操と一緒に紹介されています。
その歌をベースに、ちょっと遊んだのがこの曲です。本当はこうしたかったなあという思いですね。
もっとも内容としては、ただひたすらコンビニで買い物をするという、ただそれだけの歌です。意味などなくて、ただ買い物をするという、それだけの歌でした。
雑誌に掲載されたときは「コンビニだけというのは教育的にどうか」という配慮から、デパートやスーパーでも買い物をする歌にしましたが、本来はこういう感じでコンビニでひたすら買い物をするという歌です。
そういえば数年前に亡くなったプロレスラーの橋本真也は大のコンビニ好きで、コンビニに行くたびに1万円も使ったそうです。コンビニで1万円の買い物をするとは、いったいどんなかごになっちゃうんだろう。

■プロダクション
ひたすらコンビニで買うものを並べています。
アレンジは、オールディーズのロック。サイモンとガーファンクルの「キープ・ザ・カスタマーズ・サティスファクション」という歌がお手本です。これも3連のリズムが心地よい曲でした。
1番の終わりでクレージーな「おほほほほ」という笑い声を響かせているのは、娘の幼稚園時代の先生です。雑誌掲載時にボーカルをお願いしたのでした。そのときの音を使い回しています。
2番では、いろんな声が入ってきます。けっこうこれが楽しい。
実はどれもYouTubeから拾ったもの。YouTubeで見つけては音をスピーカーで流して、それをICレコーダーで録音してパソコンに取り込みました。実にアナログなやり方です。
本当は、滝川クリステルが「こんばんわ、滝川クリステルです」と言って店に入ってくるのをやりたかったけれど(今時、滝川クリステルっていうズレ具合が楽しいでしょ)、どの声にもニュース番組のテーマ曲がかぶっていて断念しました。ちょっと残念だった。
ボーカルは比美子です。私が言うのもなんですが、こういう曲のボーカルをやらせると実にうまい。最高のパフォーマンスです。


13 遠くへ行こうよ
作詞:三原康宏 作曲:文野武(1991年)
vocal:文野武
■楽曲
1911年の創作童謡の曲です。作詞は翌1992年に会長を務めることになる三原君(面識がないので三原さん、か)。作曲が文野君です。
この曲は、何と言っても出だしの「チャリンコ乗って遠くへ行こうよ」が秀逸。チャリンコの一言が、とてもインパクトありました。そしてチャリンコで遠くへ行って冒険者を気取るものの腹が減って帰って来ちゃうという、ほのぼのしたサザエさん的世界が広がるのでした。
曲はとてもシンプルで、アメリカ西海岸のフォーク・ロックの匂いがします。とても文野君らしいメロディーです。
この歌を好きなのは伊豆原君で、一時期、よく歌っていたっけ。

■プロダクション
アレンジはちょっと悩みましたが、西海岸フォークにしました。70年代くらいの、CSN&Yとか、イーグルスとか、あのへんの感じです。だからコードも、ドミナントセブンのA7なのにAsus4にしちゃったりしている。エレキギターも中途半端なファズとディストーションです。
でも、最もインパクトあるのは、文野君のボーカルでしょう!
フォークっぽく(例えば「鳥になって」のように)歌うだろうと思っていたら、突然、このボーカル。録音中の私はぶっ飛んでしまいました。
「ちょっとブルースっぽくやりたくて」と文野君。なるほど、ブルース・スプリングスティーンのような、こんなボーカルをイメージしてつくっていたというわけです。最高のボーカルだなあ。
ちなみに「チャリンコのって」の「チャ」の音は、なんと上のAbです(キーはDb)。地声でよく出るもんだ。
「学生時代はその上のAまで出ましたけどね」と文野君。もっといろいろと歌って欲しいモノです。ハモりも絶品。


14 竹とんぼ
作詞:加藤光久 作曲:山口晋(1978年)
vocal:井澤正

■楽曲
「海の色が変わるとき」と並ぶ、山口君の代表作です。加藤君と一緒につくった、唯一の作品じゃなかったかな?
アリスが大好きだった山口君にとって、この手のメロディーはツボだっのたでしょうね。
フォークギターをじゃかじゃか鳴らしながらこの歌を歌っていた山口君の姿を思い出します。意外と高い声が出たので、キーもけっこう高かった。

■プロダクション
ギターを何台も重ねています。けっこう細かく、緻密につくってみました。フォークギターのカッティングなどは、とても気持ちよいものになりました。
音のバランスもなかなかよいでしょ。ミックスとしては会心です。
感想のギターは、もちろん高中正義です。
歌は、井澤君。「この歌、難しいんですよ」と言いながら、なんと1テイクであっさり決めてくれました。念のためにいくつか録ったけれど、確か最初のテイクが一番よかったと記憶しています。
こういうアップテンポで爽やか路線の歌は、見事にはまりますね。


15 誕生日
作詞:犬飼聖二 作曲:丹後雅彦(2006年)
Vocal:飯野陽司

■楽曲
この曲だけ、唯一、童謡研究会と関係ない人の作品です。
犬飼聖二さんは、遊び歌作家・シンガーソングライター。その世界では知らない人のいない、大御所です。
実はこの人のアルバムを一度お手伝いすることになり、ご縁ができました。以来、ライブのバックでギターを弾いたり。
この曲は、そんなライブのための練習をしているときに、つくったものです。
練習の休憩時間、犬飼さん(ワンちゃん)が私にこの歌詞を見せて、「タンゴさん、曲つくって。休み時間の5分でね」と無茶ぶりをしてきたのでした。あらら、そりゃ無理でしょ、と言いつつ丹後が大急ぎでつくったのがこのメロディー。
中途半端にできていた歌詞に合わせて鼻歌で、ふんふんふんーと歌いながら完成でした。
その後、楽譜に起こしてワンちゃんに送ったのです。
以来、いろんなライブでワンちゃんはこの歌を歌ってくれました。そして歌うたびにだんだんよくなっていたのです。後になってワンちゃんは「最初聴いたときはつまんない曲だなあと思ったけど、やっていくうちにどんどんよくなってきましたよ」と言ってくれ、最近では「今まで人に創ってもらった曲はだいたい自分なりにメロディーを変えちゃうんですが、この曲だけはタンゴさんの創ったままですよー」と嬉しい言葉。それは光栄です。
ならば、もっと創らせておくれ〜。
ワンちゃんの還暦記念コンサートでも披露され、私は「作曲のタンゴさんでーす」と会場で紹介されるという栄誉を賜りました。
局地的にですが丹後唯一のヒット曲です。

■プロダクション
ワンちゃんがこの曲をライブで歌い続けていくうちにだいぶ浸透してきて、ライブ後は「誕生日のCDないんですか」とたずねられるようになったそうです。ライブ中は、この歌でいろんなことを思い出して、涙を流す人もたくさんいます。
そうした声に応えて、ワンちゃんはCDを制作。そのバックではギターを弾かせてもらいました。
ただ、私としては打ち込みでやりたかった。なので、そのときの思いをこうして改めて自分のCDで実現することにしました。
ワンちゃんのはギターにピアノ、笛というシンプルな音。ベースもありません。
私のはストリングスも入れた厚い音にしました。自分のイメージとしてはデビッド・フォスターみたいな厚い音にしたいんですが、まあ、それは力不足。厚いけれどシンプルな感じの音になりました。まだまだへたくそだなあ、アレンジが。
ワンちゃんが自分のCDに入れたのを待って、ようやく私も入れようと考え、ワンちゃんに一言断って収録しました。
ボーカルは、こういう世界ならもちろん親分の出番。「300回は歌った」という成果を披露してくれました。さすがのボーカルです。
これが最後に録音した歌なんですが、本来の予定では3月13日に収録する段取りでした。
その直前に地震が襲い、しかもその一週間前には藤田君が倒れている。そんな状況で無期限に延期となり、4月10日ようやく収録できました。


16風が運ぶもの
作詞:加畠京子 作曲:本郷昌恵(1976年)
vocal:丹後比美子chorus:文野武

■楽曲
私が大学に入学して童謡研究会に入った直後に発表された歌です。とても爽やかで、エバーグリーンなメロディーがとても印象的でした。
いつか収録したいとずっと考えていて、ようやく入れることができました。
作詞の加畠さん(カバちゃん)も、作曲の本郷さん(ポンちゃん)も、どちらも年に一度は集まりに参加してくれるので、交流が続いています。学生時代に1年にも満たない交流だったのに、今も続いているというのは、とても不思議な気がします。

■プロダクション
オーソドックスなアレンジにしました。途中、C→Aと転調して感想に入っています。歌の世界を広げたくてこうしてみました。
ギターの音がうまく出せなかったのが反省。難しいものです。
一方、感想ではサビのオーボエの音が会心の出来です。というのも、目立たない音なのにバックに埋もれず、ちゃんと引き立たせることができたからです。エコライザーとコンプレッサーをうまく使うことができました。別に普通に聞き流されるポイントに自己満足してしまうのが、アレンジャーという生き物の習性です。
ボーカルは比美子です。爽やかで透明なボーカルが録れました。そこに「遠くへ行こうよ」の録音にやってきた文野君に、急遽、コーラスをお願いしました。突然だったにも関わらず、このような素晴らしいコーラスができました。
この二人は90年代の童謡研究会を代表するボーカルです。もっとくませていろいろと聴いてみたいものです。
なお、バックにはかすかに水の音が流れていますが、これは2008年のゴールデンウィークに、実家の新潟に帰り、早朝にハンディレコーダー(ZOOM H4)で録音した小川の音です。
田植えの真っ最中の田んぼを渡る風が冷たくて、その中を小川がさらさらと流れていました。田舎の春の、早朝の小川です。


17 クロッカス咲いたら
作詞:桑原正光 作曲;斎藤一妻(1982年)
vocal:丹後野乃花

■楽曲
とてもかわいらしい曲です。桑原君の代表作の一つ。本人に尋ねたら「よく覚えていないけど、たぶんそういうシーンを目撃して詞にしたんでしょうね」とのことでした。
「球根をくれた」というのは、桑原君本人はそんなつもりはなかったと否定してますが、きっと「求婚」のことだと思っています。
そんなかわいらしいシーンに「クロッカス咲いたら春が来ます」という美しくて切ないフレーズをかぶせてくるのが、にくいところです。
曲は一妻君。学生生活の後半に怒濤のように曲をつくりまくった一妻君ですが、そのきっかけとなったのがこの曲だったそうで、これ以来、「いったいどうしちゃったの、という感じで」(桑原君談)怒濤の曲作りが始まったそうです。
シンプルで、歌いやすいメロディー。でもところどころ飛びます。また、普通ならこう行くだろうというのに、違う動きをしたりして、なかなかユニークな曲です。童謡研究会の有名曲の一つです。

■プロダクション
これは詞の世界から、ボーカルは娘の野乃花しかいなと決めていました。
悩んだのはアレンジです。ずいぶん長い時間、悩み続けた記憶があります。けっこうかわいいアイドルっぽくしようかと、それで譜面も書き出したりしていました。
そして最終的に決めたのが、これ。松田聖子「ピンクのモーツァルト」でした。
もちろんあの音はとても出せないけど、ところどころ、いただいてみました。
それにしても我が娘ながら、このボーカルはいいなあ。ピッチも、タイミングも、まったくいじっていません。一切手つかずのそのままのボーカルです。
いつの間にか絶対音感も身につけてしまったようで、「おうた、大好き」と笑う娘です。素直にお父さんのお願いに応えて歌ってくれてるうちに、もっとたくさん録音したいものです。


18 ねがい
作詞:井澤正 作曲:伊達重明(たんさいぼう 2010年)
vocal:井澤正 chorus:飯野陽司、伊達重明、吉江英司、 丹後家

■楽曲
A-1グランプリという企画があります。「遊び歌グランプリ」です。オリジナルの手遊びで日本一を決めようという企画で、一部ではそれなりに盛り上がっています。
この第一回目が2009年にあり、井澤君と丹後がそれぞれピンで出場しました。予選は通過したものの、決勝には残れませんでした。
そこで第二回目の2010年は、コンビを組んで「たんさいぼう」となり、さらに伊達君も誘い込んで出ることにしました。結果は本戦は出場したものの、決勝は再び進めませんでした。
決勝と予選では別のネタが必要です。この決勝用のネタとしてつくったのがこの「ねがい」でした。
遊び歌っぽくないです。もともと決勝では遊び歌というより、歌をちゃんと聴かせようという企みだったので、こういう曲になったのでした。作詞は井澤君、作曲は伊達君。
いい歌で、このまま消えていくのはもったいないぐらいいい歌で、だから今回のCDに入れることにしました。
ちなみにA-1グランプリに出場した翌日、大阪の山口君が危篤との連絡を受けました。
この歌の練習をしていた頃、既に山口君は意識を失っていたわけで、なんともせつない歌となりました。

■プロダクション
自分でいうのもなんですが、まあ、いわゆる入魂のアレンジです。レゲエっぽい淡々としたリズムに乗せて、どんどんと盛り上げていくアレンジです。
リズムの隠し味としては、ピストルの発射音をパーカッションとして使っています。これは割と得意技。
あとはギターとキーボードとストリングスで素直につくりました。
ボーカルは総出です。井澤君のリードボーカルは絶品。
後半、丹後のラップ調の「平和でありますように」が出てきます。ラップというにはへたくそですが、自分なりにメッセージは込めました。息子の「学校!」の叫びが、自分としては一番の泣きです。
なお、このラップの時、「su」の言葉がすごくとがってきこえます。これはネットオークションで購入してこの一曲だけ録って返品してしまったMulti Capsule Condenser Microphoneというマイクによるものです。なんとも個性のあるマイクでした。
山口君の悲報のあと、彼への思いを込めてアレンジし、つくっていったトラックです。
でも、リリースが遅れて震災便乗ソングみたいになっちゃったのがすごく悔しいなあ。震災前に出したかったです。


19友へ
作詞:伊藤ひろみ 作曲:斎藤一妻(1984年)
vocal:飯野陽司

■楽曲
青春時代の、心温まる歌です。悩みを抱えつつ、友と向き合っていこうという、素晴らしい友情です。作者の伊藤ひろみさんにたずねたら、よく覚えていないけれどそういう感情になった時の詞だった、とのことでした。
曲は一妻君。三拍子の、素直でやさしいメロディーで、この詞の世界にぴったりです。
でも、こういう歌は当時、受けなかったでしょうね。たぶん埋もれてしまったことでしょう。
でも、30年近くたっても輝きを放っています。いまだからこそわかる歌なのかもしれません。
「あなたの隣でいつだって 私はあなたを思ってる」というフレーズは、絶品だと思います。

■プロダクション
このアレンジを始めた頃は、山口君から入院して手術するかも、という連絡をもらったときでした。心配で「いつも山口のことを思っているからね」という、普段なら絶対にいわない言葉をメールしたのを覚えています。この歌の影響でしょう。
アレンジは、フォーク調です。ストリングスを入れようかと思ったけど、やめました。ギター中心に、だんだんと気持ちを込めていく音です。
アコースティックギターの音、こういうふうにしたいというイメージはあったのですが、どうしてもその音が出せなかった。すごく未熟で、悔しいです。もっと勉強が必要だ。
ボーカルはこの人しかいないと、親分に決めていました。
「この歌を歌っていると、なぜか昔のことがどんどん浮かんでくるんだよ。その中にはどうしても山口がいてさあ」と語りながら、親分は歌ってくれました。
やっぱり「あなたの隣でいつだって 私はあなたを思ってる、ってすごいフレーズだよなあ」とつぶやいていました。
この曲は今聴いても涙がにじんできます。


とにかく今回は時間がかかりました。
まず、9月に同期の山口君が急逝しました。
まったく予期せぬ出来事で、心構えもなく、ただ呆然と見送るのみでした。友の死があれほど応えるものだとは、知りませんでした。しばらく何も手に着かなかったものです。
1月、今度はパソコンが飛んでしまいました。マザーボードがいかれてしまったのです。
幸いにしてデータだけはすべてバックアップを取っていたので、大事にはなりませんでしたが、新しいパソコンの購入に環境の再現に、いろいろと時間とカネがかかってしまいました。まったく予期せぬ出来事で、なんとも困り果てたものでした。
しかも間の悪いことに、パソコンが壊れた日がちょうど文野君の録音日だったのです。超多忙な文野君に時間をもらうのは、1ヵ月がかり。ようやく録音できるというまさにその日にダメになってしまったのでした。
結局文野君の録音ができたのがそれから1ヵ月。パソコンのおかげでCDの完成も大幅に遅れました。
3月に入って、同期の藤田君が突然倒れて病院に運ばれ、もうその時点で危篤という衝撃的な報せが飛び込んできました。ともかく病院へと駆けつけたのですが、意識は戻らず、ただ眠るだけでした。
その直後、大震災が襲ってきます。
そのため最後の録音予定だった中山親分が、それどころではなくなり、1ヵ月以上も泊まり込み状態で仕事するという異常事態になってしまいました。
そんな中、結局藤田君が逝ってしまい、我々は半年で同期の仲間を二人も見送ることになってしまったのです。まったくやるせない出来事でした。
こうして遅れに遅れたCD制作も、4月の半ばにようやく親分の最後の録音が終了し、なんとか春の間にリリースできるようになったのです。
これを作り始めたのが去年の5月11日。あれから1年もたたずに、世界はがらりと変わってしまいました。
そんなことが影を落としているのか、ちょっと重いCDになりました。


今回はいろんなマイクを試すことになりました。最終的にはBlueというメーカーの別名・ほ乳瓶というマイクと、日本のオーディオテクニカの製品だけど輸入品の方が安いという通称ヨレヨレというマイクを主に使っています。
同時にマイクプリアンプも、Blueのロビーという製品を購入。真空管のプリアンプで、けっこういい感じです。
それにしてもいろいろとカネがかかる。
欲しいプラグインソフトが山のようにあって、指をくわえて見ているだけです。


ジャケットについて。
ジャケット写真は、3月5日に井澤君、えーじ君と祐天寺に行き、撮影したものです。祐天寺は山口君と僕が過ごした街であり、加藤君を加えた3人で濃密な時間を送ったものでした。
その街を、モチーフにしたかった。ただし過去を振り返るのではなくて、あの街は今もここにあるよということをメッセージとして山口君に伝えたかった。
井澤君とえーじ君がそれぞれに愛用のカメラを持参し、3人で2時間ほども祐天寺をふらふらと歩きながら、いろんなものを撮影しました。
ジャケット表は、駒沢通りを中目黒方面から駒沢方向を見たところ。信号を右に曲がれば東横線祐天寺駅です。
ジャケットを開くと、いろんな写真を井澤君がコラージュしてくれました。
左端のしゃれた外観のマンションは、かつて山口君が住んでいたぼろアパートの跡にできたマンションです。昔は土の通路で、ここを歩いて山口君の部屋を訪ねたものでした。
書店街、駅構内、通路、夕景と様々な写真。僕自身も2カットほど写っています。えーじ君と並んで歩いているのは、気に入っている一枚です。
上に広がる大きな空は、祐天寺のお寺の墓地上空です。
この下には一面にお墓が並んでいます。えーじ君にガードレールに登ってもらい、お墓が入り込まないようにワイドレンズで空をいっぱいに撮ってもらいました。
「ねがい」の歌の「世界が平和でありますように」という、その気持ちを込めたのがこの一枚です。
ディスクに写っているのは、祐天寺から住所で言うと五本木というところを通って蛇崩という場所和下る坂道です。
なんでもない普通の坂道ですが、春、のんびりとこの坂道を下った思い出があります。六文銭という古いバンドに「私の家」という歌があって、そこに歌われているのは、きっとこんな坂道だと思うのです。
そして、個人的にはジャケット裏の曲目紹介の写真が一番気に入っています。これは、どこの空だろう。井澤君が桜の花びらを合成してくれました。この桜は、希望だとか、未来だとか、そんなものの象徴のように感じられるのでした。
なお、この写真を撮ったときは、まだ東日本に巨大地震は起こっていませんでした。そして藤田君もまだ生きていました。


今回も大勢の皆さんに歌手としてご協力いただきました。ありがとうございました。
まだしばらくはこのCDづくりを続けるつもりですので、また何かできると思います。
そのとき、また聴いていただければ嬉しく思います。
とにかく健康で穏やかな毎日が一番です。ほんとに。


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